LightNode 1.2.0 - Swagger統合によるAPIのデバッグ実行

グラニのC#フレームワークの過去と未来、現代的なASP.NETライブラリの選び方という記事で、スライドと補足は先に上げましたが、以前に弊社で行った勉強会「Build Insider MEETUP with Grani 第1回」のレポートがBuild Insiderに上がっています。「using CSharp;」な企業を支える技術方針とベスト.NETライブラリ記事によるレポートは、さくさく読めるし、スライドで欠けていた部分も補完できていーんじゃないでしょーか。まる。

さて、で、基本的にAPIサーバーはOWINで行くんですが、API開発はとにかくふつーのウェブよりも開発がしにくい!の欠点を、前回LightNode 1.0、或いはWeb APIでのGlimpseの使い方はGlimpseフル統合で補おうとしました。それはそれでいいんですが、もう一つ足りない。それはともかく根本的にそもそも実行しづらい。さすがにモバイルのエミュレーターなりUnityのEditorなりから毎度実行は効率悪すぎてありえないし、POSTMANFiddlerで叩くのも面倒くせえ。

そこでSwagger。とはなにか、というのは見てもらえれば。

実行機付きのAPIのヘルプ・ドキュメントです。ヘルプ/ドキュメントはどうでもいいんですが、この実行機がかなり使いやすくいい!パラメータ入力してTry it out!でOK。認証が必要な場合も、右上にapi_keyというのが見えてますが、ちょっとindex.htmlを書き換えてこのapi_keyの部分を好きに都合のいい形態に変えてしまえば、機能します。実に便利。

SwaggerはAzureのAPI Appsでも利用されるようになったので、今後.NETでも目にする機会はちょっとずつ増えていくのではないでしょうか?ASP.NET Web APIで利用する方法はみそせんせーのSwagger を使った ASP.NET Web API のドキュメント生成を参照すれば良いでしょふ。

さて、LightNode(ってここではじめて解説しますが、私の作っているOwin上で動くMicro REST/RPCフレームワークです)では、Swagger統合はMiddlewareとして実装してあります。

ルートをapiと別系統にswaggerとして切ってもらって、

// 今のところPOSTしかサポートしてないのでPostを有効にしてね
app.Map("/api", builder =>
{
    builder.UseLightNode(new LightNodeOptions(AcceptVerbs.Get | AcceptVerbs.Post, new JilContentFormatter(), new GZipJilContentFormatter())
    {
        ParameterEnumAllowsFieldNameParse = true, // Enumを文字列で並べたいならこれをONにして
        // 下2つはSwagger前提で使うならエラー表示的に便利
        ErrorHandlingPolicy = ErrorHandlingPolicy.ReturnInternalServerErrorIncludeErrorDetails,
        OperationMissingHandlingPolicy = OperationMissingHandlingPolicy.ReturnErrorStatusCodeIncludeErrorDetails
    });
});

// こっちでSwaggerを有効にする
app.Map("/swagger", builder =>
{
    // XMLコメントから引っ張ってくるばあい(オプション)はパスを指定してください
    // メソッドに付与されているsummary, remarks, paramを情報として使います     
    var xmlName = "LightNode.Sample.GlimpseUse.xml";
    var xmlPath = System.AppDomain.CurrentDomain.BaseDirectory + "\\bin\\" + xmlName; // もしくは HttpContext.Current.Server.MapPath("~/bin/" + xmlName);

    // LightNode側のAPIのbasePathを指定
    builder.UseLightNodeSwagger(new Swagger.SwaggerOptions("LightNodeSample", "/api")
    {
        XmlDocumentPath = xmlPath,
        IsEmitEnumAsString = true // Enumを文字列で並べたいならtrueに
    });
});

といった感じです。ちょっとややこしーですが、基本的にはUseLightNodeSwaggerだけでOK、ということで。これで、例えば http://localhost:41932/Swagger/ にアクセスすればSwaggerの画面が出てきます。Swagger-UI自体はdllに埋め込まれています。また、定義ファイル(JSON)はapi-default.jsonにアクセスすることで、直接取得できます。

もしOwinをIISでホストしている場合、IISのStaticFileハンドラーが邪魔してうまくホストできない場合があります。その場合、StaticFileハンドラーを殺してください。Owinでやる場合は、とにかくOwinに寄せたほうがいいですね(StaticFile系はMicrosoft.Owin.StaticFiles使いましょう)

<system.webServer>
    <handlers>
        <remove name="StaticFile" />
        <!-- もしGlimpseもホストする場合はGlimpseのを先に書いといて -->
        <add name="Glimpse" path="glimpse.axd" verb="GET" type="Glimpse.AspNet.HttpHandler, Glimpse.AspNet" preCondition="integratedMode" />
        <add name="OWIN" path="*" verb="*" type="Microsoft.Owin.Host.SystemWeb.OwinHttpHandler" />
    </handlers>
</system.webServer>

もし、例えば最初に例に出しましたが、認証情報を付与するとかでindex.htmlを埋め込みのではなくカスタムのを使いたい場合、OptionのResolveCustomResourceをハンドリングすればできます。例えばこんな感じに、別の埋め込みリソースから取り出したものに差し替えたり。

app.Map("/swagger", builder =>
{
    builder.UseLightNodeSwagger(new LightNode.Swagger.SwaggerOptions("MySample", "/api")
    {
        ResolveCustomResource = (filePath, loadedEmbeddedBytes) =>
        {
            if (filePath == "index.html")
            {
                using (var resourceStream = typeof(Startup).Assembly.GetManifestResourceStream("MySample.Swagger.index.html"))
                using (var ms = new MemoryStream())
                {
                    resourceStream.CopyTo(ms);
                    return ms.ToArray();
                }
            }
            return loadedEmbeddedBytes;
        }
    });
});

当然、index以外でもハンドリングできます。

まとめ

GlimpseとSwaggerがあわさって最強に見える!あとはもともとあるクライアント自動生成もあるので、三種の神器コンプリート。実際、これでAPI開発の苦痛に思えるところがかなり取り除かれたのではないかなー、って思ってます。これを全部自分で用意するのはそれはそれは大変なので、Owinで良かったし、組み合わせに関しても、.NETでOSSを使うってこういうことですよね?という例になればよいかな。

UniRx 4.8 - 軽量イベントフックとuGUI連携によるデータバインディング

UniRx(Reactive Extensions for Unity)のVer 4.8が昨日、AssetStoreにリリースされました。UniRxとはなにか、というと、巷で流行りのReactive Programming、の.NET実装のReactive Extensions、のUnity実装で、私が去年ぐらいからチマチマと作っています。実際のところ細かいリリースは何度も行っているんで(差分はGitHubのReleasesに書いてあります)、開発/アップデートはかなりアクティブな状態でした。その間に、Google PlayやiOSのAppStoreでもチラホラと使用しているタイトルがあったりと(ありがとうございます!!!)、案外存外しっかりRealWorldしていました。GitHubのStarも順調に伸びていて、まぁまぁメジャーになってきた気はします。

その間に、いくつか素晴らしいプレゼン資料も作っていただきました!@torisoupさんの未来のプログラミング技術をUnityで -UniRx-は、分かりやすく魅力を感じさせてくれる内容になっていて、とても素晴らしいです。読むべし読むべし。toRisouPさんはQiitaでも多くの記事を書いてくださっていて、(私がgdgd書くよりも)はるかに分かりやすくていいですね!

また、@Grabacr07さんのUniRx とか ReactiveProperty とかは、今回紹介するuGUI連携についての話が、分かりやすく綺麗に紹介されているので、こちらも必読です。必読。

UniRxの最初の発表は2014/04/19のUniRx - Reactive Extensions for Unityというところで、発端は非同期処理の解消、という一面からスタートしていたのですが、すぐにUnityの発する色々なイベント処理をRxで行おうという、本来の、でありつつも応用的なところが盛んに試されるようになったのは素晴らしいことだなぁ、と思っています。これはゲームプログラミングの持つ複雑さが、Reactive Programmingの使い道を無数に産むという、相性の良さがあるのかしらん。非同期だけじゃない、データバインドだけじゃないRealなReactive Programmingがここにあり、プログラミングを、C#の可能性を、パラダイムシフトを大いに楽しめる環境です。是非楽しんでください。もちろん、実用性もありますしね!

当然(?)フリーです。

ObservableTriggers

UniRx 4.8から、MonoBehaviourのイベントハンドリング手法をObservableTriggersという概念に全面移行しました。どういうことかというと、まず、ObservableMonoBehaviourは廃止です:) Obsoleteはつけていないし、動作はしますが、非推奨になりました。その代わりとなるのがObservableTriggersです。まず利用例を。

using UniRx;
using UniRx.Triggers; // この名前空間以下にTriggerは入ってるのでusingしときましょう

public class MyComponent : MonoBehaviour
{
    void Start()
    {
        // AddComponentでTriggerを付与する
        var trigger = this.gameObject.AddComponent<ObservableUpdateTrigger>();

        // すると*Event*AsObservableが使えるようになる
        trigger.UpdateAsObservable()
            .SampleFrame(30)
            .Subscribe(x => Debug.Log(x), () => Debug.Log("destroy"));

        // 3秒後に自殺:)
        GameObject.Destroy(this, 3f);
    }
}

Triggerは対象GameObjectがDestroyされると、OnCompletedを流してイベント発火を終了します。

ObservableMonoBehaviourを継承するのではなく、AddComponentで必要なイベントのためのTriggerを与えてください。そうすれば、そのイベントがRxで取り扱えるようになります。標準では ObservableAnimatorTrigger, ObservableCollision2DTrigger, ObservableCollisionTrigger, ObservableDestroyTrigger, ObservableEnableTrigger, ObservableFixedUpdateTrigger, ObservableUpdateTrigger, ObservableLastUpdateTrigger, ObservableMouseTrigger, ObservableTrigger2DTrigger, ObservableTriggerTrigger, ObservableVisibleTrigger, ObservableTransformChangedTrigger, ObservableRectTransformTrigger, ObservableCanvasGroupChangedTrigger, ObservableStateMachineTrigger, ObservableEventTrigger を用意してあります。「ほぼ」全部です。4.6から追加された新しいイベント(OnTransformChildrenChangedとか)も網羅しています。(とはいえ全部ではないので、足りなくて必要なものがあったら自分で追加するか、私にリクエストください、単純にあまり需要なさそうだと勝手に判断したものはオミットしちゃっているので……)

また、AddComponentが面倒くさい!ので、GameObject/Componentに対して、UniRx.Triggersをusingしている場合は、XxxAsObservableメソッドを直接拡張メソッドから呼べて、するとTriggerが自動付与されるようになっています。

using UniRx;
using UniRx.Triggers; // 必ずこのusingが必要です

public class DragAndDropOnce : MonoBehaviour
{
    void Start()
    {
        // OnMouseDownAsObservableが生えてる
        this.OnMouseDownAsObservable()
            .SelectMany(_ => this.UpdateAsObservable()) // UpdateAsObservableが生えてる
            .TakeUntil(this.OnMouseUpAsObservable()) // OnMouseUpAsObservableが生えてる
            .Select(_ => Input.mousePosition)
            .Subscribe(x => Debug.Log(x));
    }
}

なので、通常使う場合は、Triggerに関しては意識する必要はありません。(ObservableEventTrigger(uGUI用)とObservableStateMachineTrigger(Animation用)だけは自動付与がないので、これらの場合だけ自分で意識的に付与する必要があります)

ObservableMonoBehaviourは継承が必要だったり(基底クラスが強制される!)、baseメソッドの呼び出しが必須だったり、空イベントの呼び出しが必ず含まれるパフォーマンス低下などなど、決して使い勝手の良いものではありませんでした。というか使い勝手は最悪でした。なんで当初からObservableTriggerのようなやり方じゃなかったか、というと……、まぁ、単純に私のUnityへの理解不足です、すびばせん。ObservableTriggerは、Unityのコンポーネント指向を活かしつつ、Rxによってイベントを自然に外側で取り出せるようになっているので、圧倒的に便利な形になったのではないかなと思います。

uGUI

uGUIのイベントがUniRxでパーフェクトにハンドリングできます!この辺の話は前述のスライドUniRx とか ReactiveProperty とかに綺麗にまとまっているのですが、例えばボタンとかが

// インスペクタから貼っつけるとか
public Button MyButton;

// こんな感じで取る(onClick.AsObservable もしくは OnClickAsObservable)
MyButton.onClick.AsObservable().Subscribe(_ => Debug.Log("clicked"));

ほぅ……。普通だ。どうでも良さそうだ。と、いう具合にuGUIのEvent + AsObservableでイベントハンドリングができるようになっています。もう少し例を出すと

// ビューからのコントロールはインスペクタでペタペタ貼り付ける
public Toggle MyToggle;
public InputField MyInput;
public Text MyText;
public Slider MySlider;

// Startとかで宣言的にUIを記述していきましょう
void Start()
{
    // チェックボックスのオン/オフでボタンの有効/非有効が切り替わるようにします
    // OnValueChangedAsObservableは.onValueChanged.AsObservableのヘルパーで、単純に省略が楽という他に、
    // 初期値(最初のisOnの値)がSubscribe時に流れていきます
    // また、SubscribeToInteractableはUniRxのヘルパーで、 x => .interactable = x を省略できます
    MyToggle.OnValueChangedAsObservable().SubscribeToInteractable(MyButton);

    // 入力文字は1秒後にテキストラベルに反映されます
    MyInput.OnValueChangeAsObservable()
        .Where(x => x != null)
        .Delay(TimeSpan.FromSeconds(1))
        .SubscribeToText(MyText); // SubscribeToTextを使うと簡単に紐付けできます

    // SubscribeToTextの人間の読める形に変換したい場合用ヘルパ
    MySlider.OnValueChangedAsObservable()
        .SubscribeToText(MyText, x => Math.Round(x, 2).ToString());
}

こんな風になります。uGUIの標準コントロールに関しては直接EventAsObservableできるように拡張されてます。ともあれ、uGUIのイベントハンドリングはスクリプトで行いましょう。uGUI標準のAddHandlerなどはやりづらいですが、UniRxはそれを簡単に行える仕組みが用意してあります。uGUIのチュートリアルや解説本では、インスペクタのイベントの部分をクリックしてメソッドと紐付けてー、などとやるかもしれませんが、あのやり方は最低最悪なので忘れましょう。スクリプトレスでイベント設定できるとか幻想なんで、少なくともRxを使おうとしているようなプログラマなら、一切見なかったことにしましょう。100億パーセントどうでもいい次元の話なので無視しておきましょう。やりづらいだけです。

unityEvent.AsObservableのかわりに、全てのUnityコントロールにはUnityEventAsObservableが定義されています。ButtonのonClickの場合は違いはないのですが、一部の値が流れるものに関しては違いがあって、コントロールに直接生えているものは初期値が流れるようになっています。この初期値が流れる、という性質は非常に重要です。と、いうのも、今回のようにUIを宣言的に記述した場合、初期値が流れないと、初期値を設定して回らなければならなくて全体の構築が狂ってしまうからです。と、いうわけで、基本的にはコントロールに生えているAsObservableを使いましょう。

ReactiveProperty

UniRx 4.8からReactivePropertyという特別な型が用意されています(あとReactiveCollectionとReactiveDictionary)。これは何かというと、通知可能なプロパティ。なんのこっちゃ。うーん、イベントと値がセットになった型。うーん、なんのこっちゃ……。

// 変更通知付きなモデル
public class Enemy
{
    // HPは変更あったら通知して他のところでなんか変化を起こすよね?
    public ReactiveProperty<long> CurrentHp { get; private set; }

    // 死んだら通知起こすよね?
    public ReadOnlyReactiveProperty<bool> IsDead { get; private set; }

    public Enemy(int initialHp)
    {
        // 宣言的に記述していく。
        // ReactivePropertyはそれ自体がIObservable<T>なので、Rxでチェーン可能で、更にそれをReactivePropertyに変換も可能
        // 死んだかどうかというのはHPが0以下になったら、で表現できる         
        CurrentHp = new ReactiveProperty<long>(initialHp);
        IsDead = CurrentHp.Select(x => x <= 0).ToReadOnlyReactiveProperty();
    }
}

// こんなふうにして使う
// ボタンクリックしたらHPが99減ってくとする(実際はなんかCollision受けたら減るとか色々)
// ReactivePropertyの値は.Valueで取り出せる)
MyButton.OnClickAsObservable().Subscribe(_ => enemy.CurrentHp.Value -= 99);

// その変更を受けてUIに変更を戻す
enemy.CurrentHp.SubscribeToText(MyText); // とりあえず現在HPをTextに表示

// もし死んだらボタンクリックできないようにする
enemy.IsDead.Select(isDead => !isDead).SubscribeToInteractable(MyButton);

今まではイベント+普通の値で表現していたものが、プロパティ一個で表現できるようになります。また、イベント自体の取り扱いもRxなので合成可能になっていて、取り回しが向上します。というわけで、めちゃくちゃ便利。実際便利。通知が必要な値は片っ端からReactivePropertyにしましょう、それで幸せになれます!

更にReactivePropertyはInspectorで利便性が向上しています。

IntRxPropのところ、インスペクタに値を表示しているのですが、これの値をインスペクタで変更すると、紐付けていたイベント(.Subscribeしているもの)への通知も飛んでいきます。地味に捗る神機能。注意点としては、ジェネリックの型はインスペクタに表示できないという制限を引き継いでいるので、インスペクタに表示したいReactiveProeprtyは、専用のReactivePropertyを使いましょう。例えばIntReactivePropertyやBoolReactiveProperty、Vector2ReactivePropertyなどが標準では用意されています。EnumをReactiveProeprtyとして表示したい、というシチュエーションも多いと思います。その場合はSpecializedなReactivePropertyを定義していきましょう。例えば

// こんなEnumがあるとして
public enum Fruit
{
    Apple, Grape
}

// こういう特化したReactiveProeprtyを作ればOK
[Serializable]
public class FruitReactiveProperty : ReactiveProperty<Fruit>
{
    public FruitReactiveProperty()
    {
    }

    public FruitReactiveProperty(Fruit initialValue)
        :base(initialValue)
    {
    }
}

// また、InspectorDisplayDrawerにたいしてCustomPropertyDrawerを指定するとインスペクタでの表示が向上/イベント通知が可能になるので
// 特化ReactiveProeprtyの作成とワンセットで行いましょう
// ExtendInspectorDisplayDrawer自体は一個あればそれで大丈夫です
[UnityEditor.CustomPropertyDrawer(typeof(FruitReactiveProperty))]
[UnityEditor.CustomPropertyDrawer(typeof(YourSpecializedReactiveProperty2))] // 他、沢山ここにtypeofを追加していく
public class ExtendInspectorDisplayDrawer : InspectorDisplayDrawer
{
}

といった感じに拡張することで、より便利になっていきます。

MV(R)P

これらのUIの作り方を指して、Model-View-(Reactive)Presenterパターンというものを提唱します。

なぜMVPか、なんでMVVMではないか。まず、Unityはバインディングエンジンを持っていません。一般的にMVVMはViewとViewModelの間をバインディングエンジンが受け持ちます。なので、素の状態ではそもそもMVVMはできません。じゃあバインディングエンジンを作るか、となると、そんなレイヤーを挟むのは複雑になるしパフォーマンスも低下するし、デメリットがメリットを上回るバインディングエンジンを作るのは難しい。バインディングは誰かが動的レイヤーを引き受けなければならなくて(例えばName直書きなINotifyPropertyChangedであったり)、ピュアC#の世界とは相性が悪い。それをWPFではXAMLに押し付けているが、動的コード生成高速化の手段が取れないUnityでは、無理して実現する価値はない。

そんなわけで、MVVMはやらない。やらないとなると、バインディング機構が存在しない都合上、どこかで、だれかが、Vを知る必要がある(じゃなきゃViewのUpdateがかけれない)。というわけでVMは存在できず、Presenterを立てる。Model自体はPresenterにも依存しないし、Viewは知らない。ただしViewまで伝搬するため通知は可能でなければならない。それらをRxが繋ぎます。従来のMVPはステートの複雑化や伝搬に困難があったが、Observableはバインディングのようにシンプルに通知を行うことができるし、Viewへの適用もバインディングであるかのように綺麗に見せることができる。Rxを介すことによって、アプリケーションを作る上での問題が解消する。しかもレイヤー的にはないに等しく薄いので、一切のデメリットはない。

再度、コードと当てはめてみましょう。

// Presenter(Canvasのルートだったり、Prefabやパーツ分割単位のルート)
public class ReactivePresenter : MonoBehaviour
{
    // PresenterはViewのコンポーネントを知っている(さわれる)
    public Button MyButton;
    public Toggle MyToggle;
    
    // ModelからのState-Change-EventsはReactivePropertyによって伝搬される
    // Modelの変更は基本的に自身が上層に通知可能であり、それはReactiveProeprtyで表現される
    Enemy enemy = new Enemy(1000);

    void Start()
    {
        // Viewからのuser eventsはRxによって伝搬され、Modelにまでリアクティブに浸透していく
        MyButton.OnClickAsObservable().Subscribe(_ => enemy.CurrentHp.Value -= 99);
        MyToggle.OnValueChangedAsObservable().SubscribeToInteractable(MyButton);

        // Modelからの伝搬もまた、Presenterを介してRxによってViewのUpdateをかける
        enemy.CurrentHp.SubscribeToText(MyText);
        enemy.IsDead.Where(isDead => isDead == true)
            .Subscribe(_ =>
            {
                MyToggle.interactable = MyButton.interactable = false;
            });
    }
}

この場合、ViewとPresenterの紐付けはUnityのインスペクタでやります、ぴっ、ぴっ、ぴっってドラッグアンドドロップですねん。ふつーの(?)MVPだと、このViewをIViewとしてモックと差し替え可能にしたりもしたりしなかったりですが、そこまでやってもメリットゼロなんでそんなことはやらないでダイレクトにViewの実体とひもづける形でOK。

それぞれの伝搬ポイントにUniRxのメソッドやクラスが用意されているので、全てをシームレスに、Reactiveにつなぎ合わせることが可能です。UniRxならね。これの何が嬉しいかというと、見通しが良く、コード量が減ります。それがもう単純に嬉しい。また、イベントの関連付けはスクリプト側に寄っているので、インスペクタがカオティックにならずに済みます。かなりUnity(+Rx)の現実に沿った作り方なのではないかなー、と思うのですがどうでしょう?この辺は意見大募集中といったところです。

カスタムトリガーを作ろう

そんな風にアプリケーションを作っていくと、イベントはRx的に発動させるのが都合が良い、ということがわかってきます。実際そう。で、SubjectやReactivePropertyなどを駆使することによりModelをRx的に作っていくのは可能なのですが、ViewからのイベントをRx的に流すためにはどうすればいいのか。標準ではTriggerが用意されてますが、それだけじゃ足りない、例えばロングタップ作りたいとかジェスチャー作りたいとか……。という場合はTriggerを自作します。作り方は、ObservableTriggerBaseを継承して……

public class ObservableLongPointerDownTrigger : ObservableTriggerBase, IPointerDownHandler, IPointerUpHandler
{
    public float IntervalSecond = 1f;

    Subject<Unit> onLongPointerDown;

    float? raiseTime;

    void Update()
    {
        if (raiseTime != null && raiseTime <= Time.realtimeSinceStartup)
        {
            if (onLongPointerDown != null) onLongPointerDown.OnNext(Unit.Default);
            raiseTime = null;
        }
    }

    void IPointerDownHandler.OnPointerDown(PointerEventData eventData)
    {
        raiseTime = Time.realtimeSinceStartup + IntervalSecond;
    }

    void IPointerUpHandler.OnPointerUp(PointerEventData eventData)
    {
        raiseTime = null;
    }

    public IObservable<Unit> OnLongPointerDownAsObservable()
    {
        return onLongPointerDown ?? (onLongPointerDown = new Subject<Unit>());
    }

    protected override void RaiseOnCompletedOnDestroy()
    {
        if (onLongPointerDown != null)
        {
            onLongPointerDown.OnCompleted();
        }
    }
}

こんな感じ、これで他のTriggerと同じノリ、OnPointerDownAsObservableでタップを拾えるように、OnLongPointerDownAsObservableでロングタップを拾えるようになります。Subjectでイベント通知することと、RaiseOnCompletedOnDestroyのところでOnCompletedを発行するのが原則です。こういう形でイベントを拡張すると、よりスムーズにRxで全てが繋がっていきます!

ライフサイクル管理

で、全部がRxになると、イベントをSubscribeしたのをどこで解除すればいーんですかー、って話になってきたりこなかったりする。基本的にTrigger系は自身が死んだ時に終了するからいいんですが、それ意外のもの、例えばObservable.TimerやObservable.EveryUpdateは自動的に止まらないので、自分で登録解除する必要があります。そのためのヘルパーとして、IDisposable.AddToがUniRxには用意されています。また、CompositeDisposableがSubscriptionの管理に使えます。

// CompositeDisposableはList<IDisposable>のようなもので、複数のIDisposableが管理できます
CompositeDisposable disposables = new CompositeDisposable(); // これをfieldにおいておいて

void Start()
{
    Observable.EveryUpdate().Subscribe(x => Debug.Log(x)).AddTo(disposables); // AddToで詰める
}

void OnTriggerEnter(Collider other)
{
    // .Clear() => 中の全てのdisposableのDisposeが呼ばれて、Listが空になります
    // .Dispose() => 中の全てのdisposableのDisposeが呼ばれて、以降はAddされたら即対象をDisposeするようになります
    disposables.Clear();
}

よくあるシチュエーションとして、Destroyした瞬間に解除したい、というのがあると思います。その場合AddTo(gameObject/component)が使えます。

void Start()
{
    // 自分が消滅したらDispose
    Observable.IntervalFrame(30).Subscribe(x => Debug.Log(x)).AddTo(this);
}

DisposeじゃなくてOnCompletedを出して欲しい、という場合にはTakeWhile, TakeUntil, TakeUntilDestroy, TakeUntilDisable辺りが使えます。

Observable.IntervalFrame(30).TakeUntilDisable(this)
    .Subscribe(x => Debug.Log(x), () => Debug.Log("completed!"));

イベントを「繰り返す」場合に、Repeatが通常使われますが、実は危険です。源流がOnCompletedを発行すると無限ループ化するからです。ObservableTriggersが終了するとOnCompletedを発行するため、安易なRepeatの使用は無限ループ行きとなります。それを避けるには、RepeatUntilDestroy(gameObject/component), RepeatUntilDisable(gameObject/component), RepeatSafeが使えます。RepeatUntilDestroyとかは文字通りなんですが、RepeatSafeは連続してOnCompltedが発行された場合はRepeatを取りやめるという、無限ループ禁止機構のついたRepeatです。ベンリ。

最後に、ObserveEveryValueChangedを紹介します。これは、ラムダ式で指定した値を変更のあった時にだけ通知するという、つまり変更通知のない値を変更通知付きに変換するという魔法のような(実際ベンリ!)機能です(実際は毎フレーム監視してるんで、ポーリングによる擬似的なPull→Push変換)

// watch position change
this.transform.ObserveEveryValueChanged(x => x.position).Subscribe(x => Debug.Log(x));

これは監視対象がGameObjectの場合はDestroy時にOnCompletedを発行して監視を止めます。通常のC#クラス(POCO)の場合は、GCされた時に、同様にOnCompletedを発行して監視を止めるようになっています(内部的にはWeakReferenceを用いて実装されています)。ただのポーリングなので多用すぎるとアレですが、お手軽でベンリには違いないので適宜どうぞ。

パフォーマンス

パフォーマンスの話は一口で言うには結構難しいところです。まずいうと、RxとLINQを関連付けてLINQだからパフォーマンスがー、というのは微妙にあてはまりません。RxはPush型、最初のタイミングでパイプラインを構築し、それを(大抵の場合)かなり長い期間(最長でObjectが消滅するまで)購読する形になります。つまり、ライフサイクルが非常に長い。だから、パイプライン構築のためのオブジェクト(のGC)のコストというのは、そんなでもないと思ってもらっていいでしょふ。Updateの度に頻繁に数千構築/解体を繰り返すようなものではない、ということですねん。パイプラインに流れる値に関しては、その頻度と書きよう次第ですけれど。また、Rxのメソッドも軽いメソッドと重いメソッドがあるので、それ次第という面もあります。とはいえそこまで気にするほどではないかなー、と。

全体的にRxを適用すると、アプリケーションはPushベースで構築されることになるので、頻繁な問い合わせ処理(Pullベース)が消え、つまり更新駆動の最小限の差分処理だけが走るので、逆にパフォーマンスは上がる、という見方もできなくもないですが、まぁさすがにそれは都合の良すぎる捉え方でしょう:) ともあれ、そういったアプリケーション構築手法の変革もあるので、そこのところも含めて評価しなければなりません。

単純なコルーチンの代替、非同期通信処理の代替レベルでなら、実質ない、と言っても過言ではないところなので、それぐらいならばもうまるっきり気にせず、ですね。また、今まではObservableMonoBehaviourが不要な場合にも空イベントを回していて、それが若干の消費があったのですが、今回からは軽量なTriggerベースで必要なものにしかイベントを付与しないスタイルになったので、全体的にはかなり取り回しよくなってきたんじゃないかなー、と思います。

まだまだ全然パフォーマンスチューニングできる領域は沢山あるので、都度行っていくつもりです(分かりやすく効果の出るところでいえばWhere.Where.Whereチェーンは1個のWhereにできたり、かなり多用されるWhere.Selectチェーンも1個のWhereSelectチェーンにまとめあげられたり、などなど)

LINQ to GameObject

あと、これはUniRxとは関係ないのですがLINQ to GameObjectもアップデートしてます。

メインはLINQ風メソッドでtransformを自在に辿れるってところで、それはLINQ to GameObjectによるUnityでのLINQの活用を読んでいたたきたいのですが、もう一つの機能に、階層上の任意の位置にGameObjectをAddしたりMoveしたりするメソッドもあります。今回のアップデートで、これがuGUIのRectTransformに対応しました!uGUIはヒエラルキーの位置を表示情報としてかなり大事に扱うため、それのコントロールが容易になるLINQ to GameObjectは役立つはずです。

まとめ

今回のObservableTrigger、uGUI連携、そしてLifetime管理といった機能によって、より様々なところに導入しやすくなった、より使いやすくなったのではないでしょうか!

直近では4/16 18:30~の歌舞伎座.tech#7「Reactive Extensions」で「Observable Everywhere - UniRxによるUnityでのReactive Programming」と題して発表を行います。こちらはニコ生での放送もあるようなので、見るといいんじゃないかなー、ということで!

Microsoft MVP for .NET(C#)を再々々々受賞しました

今年も受賞で、5年目です。実は今年から受賞分野がC#が.NETに統合されたので、エキスパタイズとしてはfor .NETになります。

会社は第一段階が終わり、といった感じで、それに付随する活動内容としても総まとめみたいなものが多かったかな、といったところでしょうか。今年はまた次の段階の始まりということで、より新しい勝負が必要になってきています。今、私が主に力を入れているのはUnityと、そのReactive Extensions実装のUniRxで、特にUniRxはかなりヒットさせられたとは思います。が、まだまだ兆しといったところなので、確固たるものにしなければならない。また、それを基盤にして、C#の強さというのを、ただの今までの.NETコミュニティにだけに留まらず、幅広い世界に届ける、伝えていきたいし、幸いにして私はそれが出来る立場にいると思っています。

より力強く、Real World C#というのを示し続けてきます。そんなわけで引き続き、今年もよろしくお願いします。

Profile

Yoshifumi Kawai

Cysharp, Inc
CEO/CTO

Microsoft MVP for Developer Technologies(C#)
April 2011
|
July 2024

Twitter:@neuecc GitHub:neuecc

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