Archive - 2018.04

株式会社グラニを退任します

創業期より参加し、取締役CTOを務めている株式会社グラニを退任します(今日、ではなく正確にはもう少し残りますが)。

マイネットさんのプレスリリースより、グラニのスマートフォンゲーム事業に関する買収と協業に向けた基本合意のお知らせグラニのスマートフォンゲーム「黒騎士と白の魔王」の配信権を買取。4月よりマイネットグループが提供・運営を持ちまして、タイトルならびにグラニのメンバーはマイネットグループへと参画しますが、私は移らず、そのまま退任という形になります。開発チームそのものはマイネットさんへ引き続きジョインしますので、ゲーム自体の運営は問題なく続いていきます。その点はご安心ください。

私の次は決まっていないので、とりあえずGitHubにレジュメを公開しています。

また、個人会社として New World, Inc. を設立しました(正確にはまだ設立しきってなくて準備中なのでfoundedはちょっと嘘です)。

社是は「新世界の創造」です。次のプロダクトにご期待下さい。とはいうものの、まぁ、まだ基本的にはただの個人事業主です。

技術顧問/社外CTO/スポットでの短期の初期技術支援から中期ぐらいまでの恒久的支援、.NET向けのSDK制作などカスタムな一品物の制作(+サポート)、C#全般の教育やパフォーマンスチューニング、ライブラリ導入支援(UniRx、MessagePack for C#, Utf8Json, MagicOnionなど)、サーバーサイドのロギングや解析などモニタリング設計、ネットワーク関連やgRPC、Roslyn(C#コンパイラ)を使ったLintやコードジェネレーターの開発、その他特にメタプログラミングが必要な基盤技術開発など、スタンダードな.NETからUnityのほうまで、私に任せていただくことが最適な領域は数多くあると思いますので、上記レジュメとあわせて、ご興味ある方はお声がけください。

更に言うと、まだ動き出してもいないので、条件によってはフルコミットな参画もなくはないので、まずは気楽にご相談からでどうぞ。

グラニを振り返り

2012年からなので、私のキャリアの中では最も長く働いたところとなります。5年間で技術トレンドも変わり、主に携わったソーシャルゲーム業界も、ウェブからネイティブへとシフトしていったわけですが、トレンドが移ってもなお、最初から最後までグラニは技術的に独特な存在感を放ち続けられた、と思っています。当初より、凡百な会社には絶対にしないという意志で、開発の方向性の意思決定や、露出のコントロールをしてきたのですが、そこはしっかり達成できたでしょう。

CTOの役割って色々あって、マネージャー色の強い形であるとか(いわゆるVPoEがいない場合はそれを兼ねて、どちらかというとそちらが強め)、あるいは技術専任の最高系なのか。私が掲げていたのは、上記の通りグラニを凡百の会社にしないこと、であったので、技術色強めでやる以外の選択はなかったです。もちろん、私より優れた技術的な人間が入ってきてそこに任せるのが適任であるという結論が正しければ譲るべきとは思いますが(ありがちなのは人に任せないことによるCTOが技術の限界値となりボトルネック化する)、結果的に最後まで私より技術+露出という面で優れた人間が入ってこなかったので(別に潰したり引き立てなかったりということはなく、客観的にね)、延々と前線にいたのは正当化されるでしょう、多分きっと。

私の理想の目的は別に前線で強いコードを書き続けること、ではなくて凡百の会社にしないこと、にあるので、必要なら技術開発を主導すべきだし、必要なら引いて広報に回るべきだし(雑誌連載持ってきたりインタビュー持ってきたり、登壇などもそうですが)、という観点で評価すれば、めちゃくちゃよくやったと自画自賛します。はい。

ただし、そこに注力した分だけ、他で劣ったところも少なからずあります(教育とかはてんでダメだし、もう少しチーム全体の成長も望むならマネジメント力を磨くか、それのできる人間を採れるべきだった)。何もかもが優れてる、何もかも良かったと言うことはできないので、トータルバランスとして、アリだったかナシだったかが問われます。これの答えは私が出せる話ではないですが、私は最初から最後までグラニにいてエンジニアの全員を採用してきましたが、皆がグラニでの経験はプラスになったと思ってもらえれば、何よりだと考えています。

神獄のヴァルハラゲート

前半のハイライトは、「神獄のヴァルハラゲート」のリリース、そしてC#への移行です。

AWS + Windows(C#)で構築する.NET最先端技術によるハイパフォーマンスウェブアプリケーション開発実践 from Yoshifumi Kawai

最初はPHPで開発されていました。なんでやねん、というところですが、まぁ色々理由はあるのですけれど、PHPで開発したほうが早く確実にリリースできそうだった、というのがあります。グラニは、gloopsのとあるゲームの開発チームが独立した形で設立されたので、技術的なバックボーンはC#(gloopsは当時唯一C#(ASP.NET Web Forms)でソーシャルゲームを開発、かつモバゲープラットフォーム上でトップのデベロッパーという中々凄い会社でした)にあるのですが、C#でソーシャルゲームを開発するのって、ライブラリが足りなすぎて難易度が結構高いのです。そこをgloopsは当時のCTOがフレームワークを作り上げてカバーしていたわけですが、一から、短期勝負でやっていくのなら、そこを再開発するよりかは、ライブラリも知見も豊富にあるPHPを選択するのは、全くおかしくない決定でした。

と、いうと私がそうしたチョイスをしたように見えますが、実際のところはジョインが諸事情で一ヶ月ほど遅れていて、既にPHPである程度作られていた後だったので、そりゃPHPでやるべきでしょう、みたいな。でもやっぱり結果的に正解でした。何より優先すべきはプロダクトの素早い成功でしたし(会社として収入がないので、一軒家にすし詰めになって無給で働いていたのです!)、成功したあとならなんだって出来ると思っていたので、素早く呑んでPHPを書きましたとも。

幸い、リリース初日にして成功を確信できたので、すぐさまC#移行のプロジェクトがスタート。まだ設立したばかりで、一本しかない状況でいきなり移植(しかもPHP側も成功を波に乗せるためどんどん追加開発していかなければならない)というのも、正直狂った判断としか言いようがないのですが、決断は遅れれば遅れるほど致命的になるので、ここはもうやりきれることを信じて即決。社長も信頼してくれて、全面的に任せてくれたというのも大きな支援でしたね。

そして何より、まだC#でやれるかも分かっていない状況なのに誘って入ってくれた人、設立されたばかりの怪しい会社にまともな応募ページもないようなホームページから応募してきてくれて入ってくれた人、強力なメンバーに恵まれました。これが一番の成功の理由で、本当に本当に感謝しています。(WebArchivesに残ってた当時のホームページ、こんな一文とmailtoしか書かれていないようなところから応募してくれたのは実際凄い、勿論私のTwitterとかBlogを見てくれていて情報をある程度は知ってはるとはいえ)

gloops時代での経験、そしてPHPでのヴァルハラゲートを経て組んだ設計は、ウェブソーシャルゲーム時代における一つの総決算でした。技術的にも成果としても他社の先を行き、C#の強さを証明する大きな事例の一つにもなれたでしょう(実際、今もC#を軸に組んでる他社さんにある程度は影響を与えられているようです)。

また、技術的にオープンに発信をし続けることで、「業界をリードする企業となること」「C#を強くアピールすること」「C#でトップの企業であると認知されること」を推進できたと考えています。それによる会社の技術的ブランドの向上は、内向けにも(所属することへの誇り・明確な方向性・技術的挑戦) 外向けにも(知名度・採用力)大きくプラスになりましたし、CTOとして何をすべきか、の答え、一例でもあると思います。

黒騎士と白の魔王

後半のハイライトは「黒騎士と白の魔王」のリリース、の間に幾つかのタイトルのリリースはありますが、大きく動いたのはここです。

の前に、その間で一番大きなものがUniRxの公開です。業界全体がネイティブシフト(今となっては懐かしい言葉の気もしますが、ウェブソーシャルゲームからiOS/Androidアプリへの移行のこと)する中で、グラニも当然ネイティブゲーム開発に乗り出すのは当然で、かつUnityを選ぶのも必然(C#だから!)。かといって既に名だたるメーカーも参入し、市場が形成されている中で、ただたんにゲーム作りました、だけじゃあ技術的に一ミリも目立てない。私自身も(Microsoft .NETの)C#業界ではそれなりの知名度があっても、Unityでの実績はゼロで、知名度は全くない。当然ヒットするゲームは作っていくつもりでしたが、それだけじゃあ、ヴァルハラゲートで達成したことは達成できないことは明白でした。何か、グラニならではの強み、まさにC#力を活かして、他社にはできない唯一のことをやらなければならない。その中で産まれたのが「C#大統一理論(サーバーとクライアントをC#で統一して活かす)」と「UniRx」でした。

UniRxは、結果的にかなりメジャー級のヒットになり、グラニが「黒騎士と白の魔王」のリリースまで沈黙していた間の技術的アピールも埋めることができたし、黒騎士の技術基盤という意味でも大きな柱になりました(良くも悪くも!)。

技術的な広報は、アピールしなくなると、どれだけ今まで目立っていてもすぐに存在感が消えることは前職の頃から分かっていたことなので、とはいえ開発に期間が空くと出すものがないから消えてしまうわけで、どうやって開発と開発の間を埋めていくかは大きな課題で、変化球的な対応ですが、(狙っていたこととはいえ)上手くいって助かりました。なんというか、メジャー級の商品(例えばコカコーラとか)が巨額の資金を投じてでも延々とCMなどプロモーションをやり続ける理由がよくわかります。多分、何もしなければコカコーラレベルのものですら埋没していってしまうのでしょう。それを考えれば「〇〇の技術で凄い会社」みたいなブランドなんて、続けなければ秒速で吹き飛びます。

【Unite 2017 Tokyo】「黒騎士と白の魔王」にみるC#で統一したサーバー/クライアント開発と現実的なUniRx使いこなし術 from UnityTechnologiesJapan
「黒騎士と白の魔王」gRPCによるHTTP/2 - API, Streamingの実践 from Yoshifumi Kawai

「黒騎士と白の魔王」の開発は結構時間がかかりましたが、終わってみれば、最近の他社比較でそこまで大きく開発期間がズレたわけでもなく、また、よりゲームの造りが重厚になっていく時代をきちんとキャッチアップできていました(例えば、黒騎士はキャラがかなりヌルヌル動くのですが、開発当時の時期の感覚では、ほとんど一枚絵でエフェクトだけ飾っておけば良い、的なところもなきにしもあらずで、ちゃんと二年先のトレンドを抑えてあった)。その甲斐もあり、チャートアクションも悪くなく、自社オリジナルIPとしては十分なヒットにできました。

しかし技術的に大成功かというと、何とも言い難いところはいっぱいあります。特にUnity側での、初期の技術決定のほとんどは失敗で、これはもう単純に開発経験のなさが大きく響いていて、終盤までダメージを与え続けることにりました。UIに関しても当時はNGUI vs uGUI(まだベータだった)で、これからの開発期間を考えると先行してuGUIを採用して進めるべき、という決断は正しかったと思うのですが、当時はまだベータ故にuGUI自体の未完成さと合わせた手間取るところの多さ+それ故に、uGUIを更に抽象化した巨大なUIフレームワークの開発を推進し、その独自UIフレームワークが目も当てられない大失敗で、開発効率でも性能面でも、そして技術蓄積という面でも大きなマイナスという、最初から特大の技術的負債を抱えるという有様は決して肯定はできません。

なのでCTOとしての技術的采配という面では、良い選択を取れてきていません。これはかなり悔いが残るところで、ちゃんと埋めたいと思っています。

代わりの挽回として、土壇場になってのシリアライザの置換(MessagPack for C#の開発)とネットワークフレームワークのgRPCへの全移行(MagicOnionの開発)を主導しました。これをリリース半年前に決定してやっているので、ヴァルハラゲートのC#移行と並ぶ、クレイジーな決断でした。いやほんと。全く検証とかしてないしね。

結果的にやりきって成功だったので良かったねという話ですが、失敗したらもうなんというかかんというか。そこを強権的に自己責任(とはいえダメージは会社全体に及ぶ)で選択できるのがCTOだし、自分でやりきるのもまたCTOなんじゃないでしょうか、という例です。万人にお薦めはしませんが、自分/自分のチームに自信を持てるなら、冒険的なこと、やるのはいいことです。多分。別に博打を打ったわけじゃあなく、私は自分自身の能力と、グラニのメンバーの能力を鑑みて、全然やれると踏んでいたので。結果成功しましたが、振り返ると成功理由の一つは人に任せっぱにするんじゃなくて自分も大事なところを噛むこと、ですかねえ。UIフレームワーク開発は投げっぱに近かったので、結果振り返ると博打で、博打はどっちに転ぶか分からないので良い判断ではなかった。

gRPCの事例が(非ゲームで)最近は増えてきましたが、ストリーミングも含めて黒騎士ほど使い倒しているところは少ないようです。その点でも技術的な優位性を世に示すことが出来ました。また、MessagPack for C#はC#最速のシリアライザとしてUniRxに継ぐヒットを飛ばし、世界的にも大きな貢献を果たしました。

グラニを技術的に特異な(しかし優れた)立ち位置として認知させるだけの技術開発は出来たと思っていますし、とはいえ、ただたんに技術で遊ぶわけではなく、ちゃんとゲームの成功に結びつくよう導入できました。この辺のバランスを上手く取って開発を推進出来たという点では、大きな成果を残せたのでないかな。

これから

口幅ったいことを言えばグラニは「C#の大本山」みたいになれましたし、実際、この先にC#大統一理論的に、めちゃくちゃやれる企業がどれだけ出てくるだろうか。ということを考えると、幸い技術的な情報は積極的に公開していったので、芽吹いていってくれたら嬉しいなあ、って。めっちゃ思います。まだまだやり残したこともやれることもあるので!

私自身は幸い、現在も色々とお声掛け頂いています。ちょっとばかし煮え切らない姿勢でいて申し訳なさもあるのですが、皆さんからお話を伺いながら、何をしていこうか固めている最中です。

グラニでの5年間で、大きな成長を果たせました。良い経営陣、良い同僚に恵まれて、私が好き放題やるのを支えてもらっちゃいました。本当に、良い経験ができ、良い実績が残せ、楽しかったです。願わくば次のキャリアでも同じような、より大きな挑戦をしていきたいところです。

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Yoshifumi Kawai
Microsoft MVP for Visual Studio and Development Technologies(C#)

April 2011
|
July 2019

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